霊山として敬われてきた出羽三山は、
厳しい自然の中に霊的な力を求める修験者や、
現世利益や先祖供養を願う多くの人々を惹きつけてきました。

修験者は山を歩き、祈り、人々は現世の幸いや、
いにしえの人々への想いを胸に、山を目指しました。
江戸の頃、白装束に身を包んだ人々が道を連なり、
宿坊で夜を過ごし、神仏に手を合わせる光景は、出羽の山々を彩る日々の営みでした。

真田延命院もまた、この流れとともに長い歳月を歩んできた宿坊です。
羽黒山の随神門にほど近く、豊かな木々と四季折々の山野草に抱かれたこの宿坊は、
祈りの場であるとともに、旅人の疲れを癒す温かい宿でもあります。
出羽三山の神聖な空気、そして今も途絶えることのない祈りの声は、
時を超えて連綿と受け継がれる山の記憶を、今に鮮やかに伝えています。

真田延命院はこれからも、変わらぬ心で訪れる人々の願いに寄り添い続けたいと考えております。


-山々の恵み-

宿坊の食事は、ただ空腹を満たすものではありません。それは、祈りであり、感謝の営みでもあります。
「心は体に呼応する」という考えのもと、宿坊を訪れる行者様は、出羽三山の豊かな恵みを体内に取り入れ、山と調和できるよう、心身を調整し山々を巡ります。この地で育まれた食材には、自然の息吹と神仏の力が宿ると信じられているためです。

まず、当院の食を支えるのは、霊峰月山の清らかな雪解け水で育まれたお米です。神聖な儀式に欠かせないお米は、この土地の恵みそのものであり、いただくたびに自然の慈しみが体に満ちていきます。

 

また、季節の彩りを宿した山菜や地元の野菜は、深い滋味を添えます。
真田延命院では、山々が育む季節の山菜を神職(山伏)や調理人が、できる限り自らの手で採取しています。
宿坊としてひと夏を越すには、なかなかの量が必要になります。山は、人の予定などお構いなしに、その表情を日々変え、その過程では、当然ながら自然への敬意と喜び、そして、あらがうこと無く委ねざるを得ない摂理に触れることになります。

そうして自らの手で採取した山菜には、やはり格別の愛着が湧きます。
調理し、お客様へ供する時にも、その背景には山の息吹と時間の積み重ねがあります。
昔ながらの在り方とはいえ、山菜を自ら採取し、乾物や漬物に仕立て、調理を手がける宿坊は、今ではごく限られてきているように思います。

出羽三山の信仰において、自然は神仏そのものです。
山へ行く前、山に入る時、そして山菜を手にした後、山へ手を合わせます。
山に分け入る行いそのものが、感謝と言えるかもしれません。

こうした祈りと感謝の心とともに、皆さまにお食事をご用意しております。

ご祈祷

真田延命院のご祈祷は、古より受け継がれた祈りのかたちを守りながら、お一人おひとりが願いに真摯に向き合う場として営まれております。

ご祈祷は、神職がその方の心に寄り添い、願いに耳を傾けることから始まります。心に浮かぶ想いは、言葉となって表れることもあれば、まだ形を持たず淡くとどまることもあります。当院では、その一つひとつに丁寧に向き合い、対話を重ねております。お話の中で、ふとご自身でも気づかなかった心の奥底にある願いが姿を現すことがあります。当院はそうした願いに寄り添い、共に祈ることを大切にしています。

また、ご祈祷に際しては、お札に神職が自らお名前を書き入れ、一筆一筆に願いを込めております。近年、さまざまな事情により、多くの宿坊で失われつつあるこの筆による祈りは、神様と皆様とのご縁を確かに結ぶため、当院が大切に守り続けるものです。

ご祈祷は、神様とのご縁を結び、心を整える尊い営みであると同時に、ご自身の内なる声に耳を澄ませる時間でもあります。このためこれらの一連の流れは、先代より大切に受け継がれてきた在り方なのです。

ご祈祷後、心に安らぎが満ち、新しい一歩を踏み出す勇気が湧いてくる。そのような深い祈りとなるよう、心を込めてお手伝いさせていただきます。

 

出羽三山神社 祝部
山伏

真田延命院 当主 
出羽三山神社 祝部
眞田英幸(山伏名・栄徳)

山伏名
栄徳

真田延命院の当主、眞田英幸(山伏名・栄徳)は、修験道に生涯を捧げ、出羽三山の伝統を継承する神職資格を持つ山伏です。平成16年には、国の重要無形民族文化財である出羽三山神社の特殊神事「松例祭」において「松聖」を務め、その修行の成果と信仰の厚みを示しました。
16歳より先達として活動を重ね、これまでに1,200回を超える月山先達を経験。昭和53年より約半世紀にわたり、毎年欠かさず湯殿山にて山籠し修行を行い、力を養い続けております。

また、出羽三山神社の祝部(はふり)として、檀那場へ信仰を伝える役割を果たし、地域の信徒や檀中との結びつきを深めています。その祈祷とお祓いには定評があり、檀中や信徒からの依頼が絶えることはありません。また、祈りとともに山に分け入り、ゼンマイをはじめとする山菜を採集し、自ら干物や漬物に仕立てることで、宿坊を訪れる方々に自然の恵みと祈りの心を届け続けています。自然と祈りを日々に息づかせるその姿は、出羽三山修験の伝統を今に伝えるものです。

出羽三山神社 祝部
眞田宗正(山伏名・宗英)

山伏名
宗英

國學院大學文学部神道学科を修め、出羽三山神社に奉職、10年間三社において神明奉仕に尽力してまいりました。出羽三山神社の祝部(はふり)として数少ない神職資格「明階」を有し、現在は承久年間に起源を持つ宿坊真田延命院にて信仰の継承と奉仕に務めています。
在職中は山に籠り、寝食を共にして神々に仕える日々も多く、祈りと修行の経験を重ねました。平成19年(2007年)には、17年に一度執り行われる神事「御深秘御戸行(ごしんぴみとぎょう)」に奉仕。古式の厳格な作法に則り、外界との交流を絶ち、山中を巡拝した日々は、神聖な気に満ち、心身に深く刻まれています。
秋の峰および神子修行においては、知事として十数年に渡り奉職。修行全体の取りまとめを司るなど、出羽三山修験の信仰と修行の体系を現代に伝える役割の一端を担ってまいりました。
現在はこれらの奉仕の経験を生かし、出羽三山の信仰と真田延命院の営みを支え、その精神を次代へと伝えるため、務めを重ねております。

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